合宿免許といえば、普通免許か自動二輪免許というイメージが強いかもしれませんが、大型特殊免許や牽引免許のような特殊な技術が求められるプランもあります。
働いている会社から、業務で使用する車両用の運転免許取得が必要になったり、新しく就く仕事のために大型特殊免許の取得が必要になったりと、通常ではなかなか取得する機会が多くない免許ですが、キャリアの幅を広げたい方や運転技術を高めたい方などにとって役立つスキルの一つといえます。
そこで、この記事では大型特殊免許や牽引免許の基本情報と合宿免許での取得方法について解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
大型特殊免許とは
大型特殊免許は、特殊な構造や機能を持つ大型自動車を運転するための免許です。自家用車などの一般的な運転免許と異なる部分が多いので、ここから詳しく説明します。
大型特殊免許の種類
大型特殊免許には、公道走行のための第一種免許と旅客運送のための第二種免許があります。日本国内では、旅客輸送事業として大型特殊車両を使用することはほとんどありません。そのほかにも大型特殊免許(農耕車限定)という免許があります。これは農耕作業用車両の公道走行と作業を同時に行える免許です。
なお、作業免許の種類や取得方法は車両の種類や作業内容によって異なります。教習所によっては、大型特殊免許と作業免許の同時教習プランを用意しているところもあります。
運転できる車両
大型特殊自動車は、工事現場などで使用する車両、農耕作業で使用する車両、道路整備に使用する車両の3種類に大きく分類されます。公道走行ができる車両の種類は、以下のとおり多岐にわたります。
■大型特殊免許で運転可能な車種
- 工事車両 (フォークリフト、クレーン車、ブルドーザー、ホイールローダー、ショベルローダー、ラフタークレーンなど)
- 農耕車両(トラクター、コンバイン、田植機など)
- 路面整備車両(除雪車、路面清掃車など)
大型特殊免許を取得すると、全長12m以下、全幅2.5m以下、全高3.8m以下の特殊車両を公道走行できるだけでなく、小型特殊自動車や原動機付自転車の運転も可能です。ただし、実際に車両を使って作業するにはそれぞれ指定の講習を修了する必要があります。
大型特殊免許の注意点
大型特殊免許は特殊な大型車両の公道走行のみに限定されるため、大型特殊免許だけでは作業を行えません。除雪車や路面清掃車などのように大型特殊車両の公道走行と作業を同時に行うには、大型特殊免許と作業車両に対応した作業免許を取得する必要があります。
トラクターの場合はほとんどが小型特殊自動車に該当しますが、公道走行には大型特殊免許(農耕車限定)が必要です。作業免許は、技能講習を受講し修了証を携帯していれば作業を行えます。
■作業例と必要な講習
作業 | 講習 |
フォークリフトで作業する場合 | フォークリフト運転技能講習 |
クレーンで荷物を吊る場合 | 移動式クレーン運転士免許実技教習
玉掛け技能講習 |
除雪車やブルドーザー、ホイールローダーなどで作業する場合 | 車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習 |
また、大型特殊免許では一般的な乗用車の運転はできません。乗用車を運転するには、普通自動車免許、準中型自動車免許、中型自動車免許、または大型自動車免許のいずれかが必要です。
牽引免許とは
牽引免許とは、牽引装置を持つ車両にトレーラーなどを連結して牽引する際に必要な免許です。牽引免許にも免許取得における特殊なルールがありますので、解説します。
牽引免許の種類
牽引免許には、牽引第一種免許と牽引第二種免許、牽引小型トレーラー限定免許の3種類があります。
牽引第一種免許は”牽引免許”と呼ばれる一般的なもので、大型トレーラーやタンクローリーなどの車両を牽引できます。牽引第二種免許はトレーラーバスなどの特殊な車両を旅客運送する場合に必要です。牽引小型トレーラー限定免許は、キャンピングカーやボートトレーラーなど、比較的軽量なトレーラーを牽引する場合に運転できる免許です。
牽引免許の取得には、普通自動車免許、準中型自動車免許、中型自動車免許、大型自動車免許、または大型特殊自動車免許のいずれかを取得していなければなりません。牽引できる車両の大きさも、所持免許の種類によって異なります。 例えば、大型トレーラーを牽引するには牽引免許に加えて大型自動車免許も必要です。
運転できる車両
牽引する車を”牽引車”や”トレーラーヘッド”、牽引される車を”被牽引車”や”トレーラー”と呼びます。被牽引車には、貨物を運ぶためのトレーラーやキャンピングカーのように単独走行できない車両などが含まれます。
牽引免許は、車両本体の重量と最大積載量を合計した車両総重量が750kg以上の車両を牽引する場合に必要です。
牽引免許の注意点
牽引免許で牽引できる車両には、以下のようにさまざまな規定があります。牽引できる台数と長さは『道路交通法』第59条第2項で以下のように定められています。
■道路交通法 第59条第2項
2 自動車の運転者は、他の車両を牽引する場合においては、大型自動二輪車、普通自動二輪車又は小型特殊自動車によつて牽引するときは一台を超える車両を、その他の自動車によつて牽引するときは二台を超える車両を牽引してはならず、また、牽引する自動車の前端から牽引される車両の後端(牽引される車両が二台のときは二台目の車両の後端)までの長さが二十五メートルを超えることとなるときは、牽引をしてはならない。ただし、公安委員会が当該自動車について、道路を指定し、又は時間を限つて牽引の許可をしたときは、この限りでない。 |
引用元:e-Gov法令検索『道路交通法』
牽引できる台数
- 2台:大型自動車、中型自動車、準中型自動車、普通自動車、大型特殊自動車
- 1台:大型自動二輪車、普通自動二輪車、小型特殊自動車
牽引の長さ
牽引する車の前端から牽引される車の後端までの長さが25mを超える場合は、原則として牽引不可
また、以下のように牽引免許が不要なケースもあります。
- 車両総重量が750kg以下の車両を牽引する場合(トレーラータイプのキャンピングカーなど)
- 自走できなくなった故障車をロープやクレーンなどで牽引する場合
故障車の牽引の場合、細かなルールが定められています。速度については、『道路交通法施行令』第12条で以下のように記されています。
■道路交通法施行令 第12条第1項、第2項
第十二条 自動車(内閣府令で定める大きさ以下の原動機を有する普通自動二輪車を除く。)が他の車両を牽引して道路を通行する場合(牽引するための構造及び装置を有する自動車によつて牽引されるための構造及び装置を有する車両を牽引する場合を除く。)の最高速度は、前条及び第二十七条第一項の規定にかかわらず、次に定めるとおりとする。
一 車両総重量(道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第四十条第三号に掲げる車両総重量をいう。以下同じ。)が二千キログラム以下の車両をその車両の車両総重量の三倍以上の車両総重量の自動車で牽引する場合四十キロメートル毎時 二 前号に掲げる場合以外の場合三十キロメートル毎時
2 前項の内閣府令で定める大きさ以下の原動機を有する普通自動二輪車又は原動機付自転車が他の車両を牽引して道路を通行する場合の最高速度は、前条の規定にかかわらず、二十五キロメートル毎時とする。 |
引用元:e-Gov法令検索『道路交通法施行令』
故障車の牽引方法
ロープに白い布をつける、牽引車と故障車の距離を5m以内に保つ。故障車にも当該車両の運転免許所持者の乗車が必須。
速度
一般道の法定速度は60km/h、ロープやクレーンで故障車を牽引する場合は、牽引される車両の重量や牽引車の種類によって時速25km、30km、40kmの速度制限が異なる
大型特殊・牽引免許の取得方法
大型特殊・牽引免許の取得方法には、自動車教習所に通う方法と運転免許センターで直接試験を受ける一発試験があります。これらの方法を説明します。
試験に一発合格する
一発試験では、運転免許センターで学科試験と適性試験、技能試験を受けて合格すると免許を取得できます。教習所での教習費用を省けるメリットがありますが、一発試験は難易度が高いことが特徴です。
特に、大型特殊や牽引車両は操作が複雑であり、独学で運転技術を習得するのは容易ではありません。そのため、数回にわたる再受験の可能性を考慮しておく必要があります。また、試験は平日に実施されることが多いため、休日が土日のみの方は日程を合わせなければならないという点も注意が必要です。
一発試験に挑戦する場合は、事前に十分な運転練習を行い、試験に関する情報収集や試験勉強など試験対策や準備をしっかりと行うことが重要です。
教習所を利用する
教習所を利用して大型特殊・牽引免許を取得するには、自宅から通学する『通学免許』と、宿泊施設に滞在しながら教習を受ける『合宿免許』の2つの方法があります。また、移動式クレーンや玉掛け、フォークリフトなどの資格教習を同時受講できる場合もあります。一度に複数の免許取得を目指したい方におすすめです。
通学免許は、自宅から通える範囲の教習所しか選べないという制限があるため、仕事をしながら免許取得を目指す方に適しています。
合宿免許は、全国各地の教習所で実施されており、より多くの教習所からプランを選べます。短期間で集中的に教習を受けられるため、忙しい社会人の方や効率的に免許を取得したい方にぴったりです。プランは宿泊代や食事代などが含まれ、費用を抑えられるというメリットもあります。また、自由時間を利用して観光やほかの教習生との交流を楽しむこともできます。
プランを選ぶ際には、ライフスタイルや予算、自動車学校の場所などに合わせて検討しましょう。
合宿免許で大型特殊・牽引免許を取得するには
ここからは、合宿免許で大型特殊免許・牽引免許を取得するまでの期間や費用、流れについて説明します。
取得までの期間・費用
大型特殊免許
普通免許を所持していれば、最短日数は4日間です。
費用相場は10~15万円です。相部屋になれば10万円以下で入校できることもあります。教習所によって金額差はあるため、問い合わせてみると安心です。
普通MT免許所持の場合、学科教習が免除され合計で6時限の教習を受けます。普通免許を持っていない場合でも大型特殊第一種免許を取得することは可能です。その場合学科教習22時間と技能教習12時間を受けることになるので、日程は長くなります。
所持免許別の教習時限数は、以下のとおりです。
■大型特殊免許の教習時限数
所持免許 | 学科教習 | 技能教習 |
普通自動車MT | なし | 6時限 |
中型自動車(8t限定含む) | なし | 6時限 |
なし・原付・小型特殊 | 22時限 | 12時限 |
自動二輪 | なし | 10時限 |
大型特殊免許の場合、入校日から3ヵ月以内に取得しなければならないという教習期限の規定があるため、注意が必要です。
牽引免許
先述したとおり、牽引免許は『大型免許』『中型免許』『準中型免許』『普通免許』『大型特殊免許』のいずれかを取得していることが条件ですが、教習所で運転する教習車はMT車のみで大きさは中型車ほどあるため、普通車免許のみの場合は少し苦労するかもしれません。
普通免許所持の場合、最短日数は6日間です。教習所に入校したら、適性検査と12時限の技能教習を受けます。合宿免許の場合、費用は12~18万円ほどです。
教習時限数は、以下のとおりです。
■牽引免許の教習時限数
所持免許 | 学科教習 | 技能教習 |
普通自動車MT、準中型自動車、中型自動車、大型自動車、または大型特殊自動車 | なし | 12時限 |
なお、雇用保険に加入している方や離職したばかりの方は、合宿免許で大型特殊・牽引免許を取得する際、教育訓練給付金制度を利用できます。条件を満たせば最大で教習費用の20%(上限10万円)が支給されます。
教育訓練給付金制度は指定された教習所に限定されていますので、必ず教育訓練給付金制度の対象校かどうかをチェックしましょう。
取得条件
大型特殊免許と牽引免許の取得条件は異なります。それぞれの受験資格は以下のとおりです。
■大型特殊免許と牽引免許の取得条件
大型特殊免許 | 牽引免許 | |
年齢 | 満18歳以上 | |
運転経歴 | 条件なし | 普通自動車免許、準中型自動車免許、中型自動車免許、大型自動車免許のいずれかの免許を所持している |
視力
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両眼で0.7以上かつ片眼でそれぞれ0.3以上、片眼の視力が0.3に満たない場合は片眼で0.7以上かつ他眼の視野左右が150度以上 | 両眼で0.8以上かつ片眼でそれぞれ0.5以上 |
| ※眼鏡、コンタクトレンズの使用可 ※色付きメガネ、遮光メガネ、カラーコンタクトレンズ等を除く |
|
色彩識別能力 | 赤色、青色、黄色の識別ができる | |
深視力 | 条件なし | 三桿法を使った3回の深視力検査で、誤差が平均2cm以内 |
聴力 | 10mの距離で90dB(デシベル)の警音器の音が聞こえる(補聴器の使用可) | |
運動能力 | 自動車運転に支障を及ぼす恐れのある身体障がいがない |
上記条件について心配な点がある方は、各都道府県の『運転免許試験場(運転免許センター)の安全運転相談(運転適性相談)窓口』にご相談ください。
取得の流れ
大型特殊免許・牽引免許を取得するまでの規定時限数や教習スケジュールは異なりますが、免許取得までの流れは同じです。
1.第一段階
規定時限数の技能教習を受けます。
2.第二段階
規定時限数の技能教習を受けます。
3.卒業検定
全規定時限数を修了し、卒業検定を受験します。
4.卒業
卒業検定に合格後、卒業証明書が発行されて卒業です。
5.本免許試験
運転免許センターで適性試験に合格すると、免許証が交付されます。
大型特殊・牽引免許の取得で仕事の幅を広げよう!
大型特殊免許も牽引免許も、一般的に単独で取得するというよりは、普通免許を取得後に同時教習などで取得される方が多い免許です。どちらも高度な運転技術や作業技術を習得できるだけでなく、仕事の幅を広げるために役立つ資格です。
日程も普通免許を持っていれば一週間以内でとれるため、取得の際は合宿免許で短期集中して取るのがおすすめです。条件を満たせば教育訓練給付制度も利用できます。合宿免許で費用を抑えながら効率よく免許取得を目指してはいかがでしょうか。