自動車関連 | 公開日:2015年10月22日 / 最終更新日:2016年5月30日 / 3282view |
【オトコのクルマ選び指南 後編】自動車雑誌元編集長嶋田智之氏が独断と偏見で選ぶ若者たちに乗ってほしいクルマ5選
『オトコのクルマ選び指南』、第2弾です。若い男性に向けた“こんなクルマの選び方をするとオトコっぷりが上がるかも、人生がもっと楽しく豊かになるかも”なクルマを予算250万円以内で紹介せよ、の続編です。第1弾では「難しいことは抜き。とにかく乗って楽しいクルマ!」と「できる男を目指すなら……ビジネスシーンの良きパートナーとなるクルマ」について触れさせていただきました。課せられたテーマは、あと3つ。第1弾の冒頭で予告したとおり、今回もちょっとばかり偏っているかも知れませんが、いってみたいと思います。
3:ファミリーカーでもワクワク感が欲しい
ファミリーカーということは、少なくとも家族4人がそう窮屈な思いをすることなく移動できるクルマ。ワクワク感ということは、操縦する楽しみ、走らせてるときの気持ちよさ、ともに暮らすことの嬉しさ、みたいなもの。
ここで筆頭にあげたくなるのは、シトロエンC3、それも現行モデルです。なぜかといえば、どことなくカボチャの馬車を連想させる雰囲気のコンパクトなクルマながら、大人4人がすんなりと座席に収まって、荷物もそれなりに積めるという大前提を満たしているのはもちろん、このクラスのクルマとしてはピカイチ級に、素晴らしく快適に移動できるクルマだからです。
シトロエンは、世界で最も乗り心地のいいクルマを送り出してきた自動車ブランド、といっても過言ではありません。フランスのあちこちに残る石畳の上や郊外のうねり多き丘陵地帯の道を、しなやかに心地好く走れるように作られてるのです。日本の道で快適じゃないわけはありません。ちょっと前まではいわゆる“ハイドロ”と呼ばれる油圧と空気圧を利用した高コストで複雑な仕組みを持つサスペンションを持つのがシトロエンらしさとされ、まるで魔法の絨毯のような浮遊感のある乗り心地は、まさしく夢のようでした。が、今では技術も進み、夢のような乗り心地を金属バネのサスペンションでも作り上げることができています。
C3はその足腰の柔軟さのわりには、コーナーでも意外や粘り強く走ってくれて、スポーティなところもあったりします。またフロンドウインドーが運転席と助手席の頭の上まで伸びてるので、視界が素晴らしく広くて開放的。これがまた気持ちよくて楽しいのです。それにとても扱いやすいクルマなので、奥さんや彼女と運転を交替しやすいというのも、ファミリーカーとしてはポイントが高いですよね。
そしてもう1台をあげるとしたら、BMWの1シリーズでしょうか。新車ではちょっと予算オーバーですが、ユーストカーであれば2011年デビューの現行版にも手が届きます。1シリーズを推す理由は、何といっても“走りの楽しさ”です。もちろんファミリーカーとしての条件をしっかり満たしているのももちろんですが、このクラスで唯一の後輪駆動レイアウトとBMWならではの絶妙なセットアップが生み出す何ともいえないスポーティなハンドリングが、素晴らしく大きなドライビング・プレジャーを与えてくれるのです。皆で出掛けるときには運転手だけちょっとばかりツマラナイ想いをする瞬間っていうのがあるわけですが、このクルマはレーンチェンジひとつですら気持ちいいので、運転手だけが味わえる楽しさっていうのを満喫できるわけですね。
4:ちょっと背伸びして上質感・大人の雰囲気のあるクルマを300万円以下で
年齢を重ねると若ぶりたくなるのに、若いときには大人っぽく見せたいもの。思えば不思議な現象ですけど、僕にも若い時期ってのがあったので、気持ちはよーく解ります。このパートでの僕の圧倒的なオススメは、アルファ・ロメオのジュリエッタ。新車には僅かに手が届きませんが、1〜2年落ちの新鮮な(?)ユーストカーなら充分に狙えます。
ジュリエッタの魅力は、まず解りやすいところでいえば、その彫刻的ともいえるエレガントなスタイリング。2ボックスのハッチバック・モデルの中で、史上最も美しいシルエットとディテールを持ったクルマだと、個人的には感じています。昼日中に見るとスポーティ、夜に出逢うと官能的。そうした二面性で心を躍らせてくれるようなところがありますが、いずれも悪目立ちするほど派手ではない辺りに、抑制の効いた大人っぽさが覗えますね。インテリアのデザインも然り。こうしたところはイタリアン・デザインの真骨頂といえるでしょう。
もうひとつイタリアンっぽいなぁと思えるのは、走る楽しみを絶対に忘れていないこと。エンジンはサウンドこそジェントルですが、端切れのいいリズムは心地好く、加速も想像以上に爽快です。コーナリングに至っては絶品級で、グッと姿勢を沈めてスパーッ! とスピーディに、それも抜群の安定感を伴ってクリアしていく様子には、惚れ惚れしてしまいます。また、誰もが知ってる名前なのに“解ってる人が乗る”という印象のある、アルファ・ロメオというブランドのクルマであることも大きいですね。
“大人といえばセダンだろ”という人もおられるでしょうから、1台を選ぶとすれば、プジョー508でしょうね。こちらもユーストカーなら1〜2年落ちのクルマに手が届きます。控えめなルックスながら“どこか違う”と思わせる物静かな印象、プジョーという“通”好みのブランド、スピードに関しては過不足なく、それでいてどこまでもジェントルな包容力のある乗り味、そして“猫足”とも形容されるひたひたとしたしなやかな乗り心地。大人の男がさりげなく転がすのに相応しい1台です。プジョーのフラッグシップ・セダンでありながらこの価格帯で狙えるのは、何とも嬉しい限りです。
5:予算無視の無差別級、嶋田さんが所有したいクルマ
えーっと……これ、一番ムズカシイです。だって手に入れたいクルマなんて山ほどあるんですから。例えばテーマにある“予算無視”というところに着目すれば、これは夢のあるスーパーカーとか、その辺りを指し示すのでしょう。それを新車で考えた場合、僕の場合には断然、アストンマーティンなのです。V12ヴァンテージSか、ヴァンキッシュか、いずれにしても世界で最も芳醇なテイストを持つV型12気筒エンジンを搭載したモデルを手に入れるのが、ひとつの目標なのです。ただ、アストンは誰にでも似合うクルマっていうわけでもありません。クルマそのものが見事なまでの風格を備えているので、男としてある程度以上成熟しないと、借り物のようにしか見えないだろうと思うのです。51歳の僕ですらそうなのだから、20代や30代の人にはなかなかマッチしにくいかも知れませんね。それ以外にもポルシェ911やシヴォレー・コルヴェットも大好物で、この2車なら若い人にもそれなりに似合うのでしょうが……いやいや、夢は広がる一方ですね。もちろん夢を抱くのは生きていく上でとても大切なことだと思いますから、三文ライターではありますが、諦めるつもりはありません。皆さんも諦めないでくださいね。
で、もうひとつの“無差別”というところに目を向けると、ふと「もしかしたらコイツは最強なんじゃないか?」というクルマが、頭の中にポムッ! と湧いて出てきました。……何か? スズキ・ジムニーなのです。当然ながら、新車で楽々予算内にあります。
軽自動車です。本格派のクロカン4WDです。乗り心地がものすごく快適というわけでも、高速道路での巡航が得意中の得意というわけでもありません。けれど、ラフロードの走破性は実は世界一といえるレベルにあって、大きくて重たい並みのSUVでは歯が立たない豪雪地帯や山間部でもスルリと走り抜けることのできる実力の持ち主です。おおよそ考えられる道という道は守備範囲、場合によっては道なき道にも踏み込んでいくことができるほどです。そんなところは走らない? そうですね、あまり走ることはないかも知れません。だけど、350km/hの最高速度を誇るスーパーカーだって、その速度を出すことなんて、まずないですよね? 全く同じことだと思うのです。重要なのは、それが“できる”ということ。そして、その“できる”を活用して、日々の暮らしをもっともっと楽しいものへと育て上げられる可能性を持っている、ということ。もちろんライフスタイル的にこうしたクルマが合わない人もいることでしょうが、それでもここで紹介しておきたいと考えたのは、このクルマは僕達の人生の可能性を大きく広げてくれるから、このタフなクルマを綺麗に使いこなすことができたなら、人生、相当に楽しくなるだろうな、という未来予想図が描けるからなのです。クルマは単なる道具でもアクセサリーでもなく、日々の暮らしを楽しむための仲間であり、見知らぬ世界を垣間見せてくれる相棒であり、何より自由の象徴なのですから……。
──というわけで、5つのテーマに添って(だいぶ偏った感じで)オススメのクルマを紹介してきました。が、書くだけ書いておいてナニですけど、こんなものを気にする必要なんてありません。なぜならば、自分の好きなクルマ、気に入ったクルマを選ぶのが一番の幸せへの早道だからです。もちろん予算の問題はいうまでもなく、家族構成だとか使用環境だとか、いろいろな前提条件はあるでしょう。けれど、その中で最も自分が気の惹かれるクルマを選ぶのが、一番いいのです。人間同士でも、気のおけない仲間(=好きなヤツ)と一緒にいるのが最も快適で最も楽しい時間でしょ? 大好きな恋人(あるいは家族)と一緒に過ごす時間が、一番幸せでしょう? つまりはそういうことなのです。
それともうひとつ。どんなクルマに乗っているからといって、それだけで決まるほど“男っぷり”というのは安っぽいものではありません。めちゃめちゃ高価なスーパーカーに乗っていても見下げ果てた男はいるし、崩壊寸前のくたびれた軽自動車を転がしていてもグッと惹き付けられる男はいます。最後の最後は人間性がモノをいうのです。クルマを磨く前に自分を磨け、ですね。かくいう僕も……磨きます。諦めずに。はい。
嶋田智之
1985年、ホビー系およびライフスタイル系の書籍雑誌を出版する(株)ネコ・パブリッシングに入社。ヒストリックカー、スポーツカーファンのための自動車雑誌「Car Magazine(カー・マガジン)」編集部を経て、外車・国産車、新車・旧車を問わない様々な車とカーライフを提案する「Tipo(ティーポ)」の創刊スタッフ、後に名物編集長として人気雑誌へと盛り立てていく。その後スーパーカー専門誌「ROSSO(ロッソ)」総編集長を担当し独立。現在はクルマとヒトを柱に「モノ書き兼エディター」として、編集執筆業やトークショーなどで活躍中。車と、車にまつわる人たちへの愛とロマンに満ちた独特の世界観がある記事には、編集者時代からファンが多い。