自動車関連 | 公開日:2015年10月6日 / 最終更新日:2016年5月30日 / 6579view |
【オトコのクルマ選び指南 前篇】自動車雑誌元編集長嶋田智之氏が独断と偏見で選ぶ若者に乗ってほしいクルマ5選
前回、“助手席の彼女たちにオトコからお願いしたいこと”なんていうまるっきりガラじゃないコラムを書かせていただいて、どういうわけか皆さんから好評を頂戴したらしく、おかげさまで再びの原稿発注をいただくことができました。明日をも知れないしがないモノ書き稼業ゆえ、ありがたやありがたや。感謝いたします。
編集担当さんからいただいたメイルを読ませていただくと、今回僕に与えられたテーマは、『オトコのクルマ選び指南』であるとのこと。若い男性に向けて“こんなクルマの選び方をするとオトコっぷりが上がるかも、人生がもっと楽しく豊かになるかも、といったアドバイスをヨロシク”というようなことが記されていました。
えーっと……マジですか? と、いぶかしい気持ちになりました。発注相手を他の誰かと間違えたのかな? と。なぜなら、僕にその手の話を語らせると、ちょっとばかり(とは言えないくらい)偏ったチョイスを並べる危険性が高いからです。何せ編集者として関わった自動車雑誌は、世間的なスタンダードから大きく外れた趣味性の高いモノばかり。フリーランスになってからも、オファーをいただけるのはそっち系(編集部註:スーパーカー、スポーツカー、ヒストリックカー。欧州車中心)がほとんどで、いわゆるフツーのクルマに試乗する仕事には恵まれていません。世界に数台しか存在しないクルマに試乗した経験は何度かあっても、日本で最も売れてるクルマには乗ったことがなかったりします。あまりニュートラルな視点でこうしたことを語れる男ではないのです。
しかもメイルには“独断と偏見で選んでもらって構わない”と添えてあり、“基本、予算は250万円まで、日本車も輸入車も新車も中古車も何でもあり”と条件が書かれていて、5つのテーマが並べられていました。……うーむ。皆さんの参考になるかどうかは何ともいえませんが、とりあえず考えてみますか。
1:難しいことは抜き。乗って楽しいクルマ!
これはもう問答無用で、マツダ・ロードスターでしょう。最新型の“ND”と呼ばれるモデルでもベーシックモデルは249万4800円と、税込み価格では250万円以内に収まっています。前のモデルのNC型、そのひとつ前のNB型、そして伝説の初期型であるNA型はユーストカーになるわけですが、当然ながら相場は楽勝で250万円以下、ですね。
色々な考え方があるでしょうけれど、僕は若い人こそスポーツカーに乗るべきだ、と思っています。セダンやワゴンといったクルマ以上に実に様々なことを教えてくれる、先生のような存在だからです。走ることに対してピュアな作りがなされていますから、ドライビングの基礎を勉強するのにも適していますし、何より走らせることそのものが楽しいのです。
マツダ・ロードスターは、いつの時代のどのモデルも共通して、持て余さない程度にパワフルなエンジンとドライバーの意志に忠実に応えてくれる軽量ボディと後輪駆動のシャシーを持つクルマです。走ることそのものに楽しさが満ち溢れた爽快なスポーツカーでありながら、デイリーユースにも全く難儀したりはしません。美しい日本の四季を全身で楽しめるオープンエアも標準装備です。コンビニまで買い物に行く往復の道のりすらちょっとしたドラマに変えてくれるような、そんな存在。グランドツーリングにだってためらいなしに出掛けられるし、そのままサーキットに持ち込んでスポーツ走行も堪能できる、何とも頼もしい相棒でもあります。しかも、モデルによってはユーストカーで100万円を楽々下回る価格で手に入れることだって可能です。これを狙わない手はないですよね?
2シーターだと都合の悪い人や、いかにもスポーツカーらしいルックスに気恥ずかしさを感じたり、あるいはもっとお洒落なクルマが欲しいという人には、近頃ユーストカーの価格が200万円を切る価格のものも増えてきた、アバルト500 もオススメの1台です。誰もが思わずニンマリしてしまうフィアット500の姿をしていながら、走り出したらそのコロッとしたルックスからは想像できないズバッといけちゃう性格。やたらと勢いのいい小さな韋駄天です。実用的な小型ハッチバックですが、そのカテゴリーの中では世界で最も刺激的といえるでしょうね。一度味わっちゃったら病みつきになるレベルですから。
2:できる男を目指すなら……? ビジネスシーンのパートナーとなるクルマ
ビジネスシーンを考えるとなると、スポーツカーというわけにはいきませんよね。ヒト様をお乗せすることもあるわけですから、セダンもしくはワゴンが適切な選択でしょう。250万円という金額を出せば、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディというドイツ製プレミアムブランド御三家も、ユーストカーであれば充分手が届きます。
が、昔と較べてだいぶ少なくなったとはいえ、いまだに「高級なガイシャに乗るなんて偉そうで生意気」と考える心のナロウな人がおられるのも事実。取引先のお偉いさんの中にそんな人がいたりしたら、ちょっとめんどくさそうですよね。
そんなところが影響して日本車のミドルクラス以上のセダンという無難な選択をするビジネスマンが多かったわけですが、それらのクルマの良し悪しとは全く関係なしに、そうした選択をすることそのものが残念でなりません。だって、そこには何ひとつとして楽しそうな気配が感じられないから。せっかく安くない代償を支払って手に入れるのですから、日々を楽しくしてくれるモノを選ぶ方がいいに決まってるじゃないですか。
僕がこのカテゴリーで選ぶなら、スバル・レガシィのツーリングワゴンです。予算を考えると、2009年から2014年までの5代目か、2003年から2009年までの4代目がちょうどいいところでしょう。
レガシィ・ツーリングワゴンが素晴らしいのは、乗り心地も含めた実用性と日常性においてほとんど不満の持ちようがない出来映えの素晴らしさを持ち、ウイークディは強靱なビジネスマンズ・エクスプレスとして機能してくれて、休日にはスバルのお家芸である4WDシステムと広大なカーゴスペースを活かしてあらゆるアクティビティに対応してくれる趣味のアシとして活躍してくれる、包容力のある万能性を発揮してくれるところ。
ステーションワゴンでありながら走らせてみるとかなりスポーティで、見た目と違ってクルマ全体の重心位置が低いおかげで安定性もハンドリング性能も極めて高く、またその走行フィールには、ちょっと他の日本車からは感じ取れない欧州車を連想させる感覚があったりもします。いわゆる自動車通がクチにする“日本車の退屈さ”というものもありません。ルックスとしては控えめと言える部類なのですが、レベル、かなり高いのです。仮に「日本車から何か1台を選べ」という究極的な質問をされたなら、僕も個人的にレガシィ/レヴォーグは筆頭候補のひとつに挙げるでしょうね。
ちなみにドイツ製プレミアムブランド御三家も選べると記しましたが、輸入車に乗っても全く問題のない職種の方のために申し上げておくと、メルセデス・ベンツだけはオススメしません。いや、クルマとしては抜群にいいのです。それは真実。問題なのは、メルセデスを一度所有してしまうと、その乗り味や世界観に満足し切って、それ以外のクルマにあまり関心が向かなくなってしまう傾向があるということ。それは他にも素晴らしいクルマがあるのに、それを知るチャンスを放棄してるに等しいことだと思うのです。だから“若い人に”という条件がつく場合、僕はメルセデス推しをする気にはどうしてもなれません。ひねくれ者であることは自覚してますけれど。
──というわけで、まだ他にもテーマをいただいてるのですが、それは次回の第2弾で、ということにさせていただきましょう。だって……長くなっちゃうんだもん。
嶋田智之
1985年、ホビー系およびライフスタイル系の書籍雑誌を出版する(株)ネコ・パブリッシングに入社。ヒストリックカー、スポーツカーファンのための自動車雑誌「Car Magazine(カー・マガジン)」編集部を経て、外車・国産車、新車・旧車を問わない様々な車とカーライフを提案する「Tipo(ティーポ)」の創刊スタッフ、後に名物編集長として人気雑誌へと盛り立てていく。その後スーパーカー専門誌「ROSSO(ロッソ)」総編集長を担当し独立。現在はクルマとヒトを柱に「モノ書き兼エディター」として、編集執筆業やトークショーなどで活躍中。車と、車にまつわる人たちへの愛とロマンに満ちた独特の世界観がある記事には、編集者時代からファンが多い。