自動車関連 | 公開日:2016年12月5日 / 2631view |
「自動運転って何だ?」自動運転の基礎講座
近頃、メディアでも取り上げられることの多い「自動運転」。今や様々なクルマに自動運転機能が導入され、自動運転は身近なものになりつつあります。
便利になって嬉しい反面、もし、自動運転への認識や使い方に誤りがあれば事故につながるリスクも――。自動運転について、使い手である私たちがきちんと理解しておくことも大切です。そこで今回は、①自動運転って何なの? ②自動運転が実現するとどうなる? ③実現への課題 ④ドライバーが気を付けるべきことは? の4つのポイントについて、モータージャーナリストの鈴木ケンイチさんに解説していただきます。
目次
自動運転とは何なのか?
そもそも自動運転とは何なのでしょうか? いろいろな意見はあると思いますが「(運転者を含む)自動車に乗っている人が何もしなくても、目的地まで、完全に自動で走ってくれる」とイメージする人が多数派ではないでしょうか。実際に自動車メーカーで自動運転の開発に携わるエンジニアも「目指すところはソコだ」と言うのを聞いたことがあります。そして、そんな完全な自動運転が現実化すれば、世の中は大きく変化します。
自動運転が完成すると、世の中はどう変わる?
自動運転が完成すると、世の中はどう変わるのでしょうか? 完成した自動運転車は通信機能があるので、スマートフォンのアプリなどを使って呼ぶことができます。呼ぶと、無人の自動運転車が走ってきて乗車でき、運転をしないでも目的地へ行くことができます。
無人のため人件費がかからないことで、タクシーとして使っても、現在のタクシーと比較しても利用費は安くなります。タクシー代が安くなると、わざわざ自分の愛車を買う人は減るのではないでしょうか。自動車を所有していなければ、駐車場代もかかりません。また、「今日はスポーツカー、明日はSUV、週末はMPVを使おう」なんて気分に応じて変えることも可能となります。
さらに嬉しいことに、交通事故が激減することが想定されます。ある調査によると、交通事故の9割はドライバーのミスに原因があるとか。自動運転でドライバーのミスを減らすことが可能です。さらに自動運転のクルマ同士が通信しあい、各車のスピードを調整することで渋滞も減ります。
また、今後世界中で都市への人口集中が進むと予想されており、都市化に伴う渋滞問題の解決にも自動運転が役立ちます。
一方で都市に人が集まれば、地方は過疎になります。高齢者が地方に残されるかもしれません。安価に利用できる自動運転車があれば、運転ができない高齢者も移動が可能になり、暮らしやすくなるでしょう。
それだけでなく、運転という行為から解放されたドライバーが車内で自由にできる時間が生まれます。ネット接続を利用して、新しいビジネスが生まれる可能性もあります。このように完全自動運転が実現すれば、クルマの使い方だけでなく、生活からビジネスまで大きく変化することが予想されます。過去にインターネットが普及したときと同じような大変革が起きることが予想できます。
そうした未来の変化においていかれないように、世界中の自動車メーカーは、今、必死になって自動運転を開発しています。
完全な自動運転は、一足飛びには実現できない
自動運転が完成すればバラ色の未来がやってきます。でも、そのためにはクリアしなくてはならない課題がたくさんあります。まずは技術的なハードルです。
リアルワールドには、さまざまな形の道路があります。白線がちゃんと引かれている道もあれば、そうでない道もあります。合流がへんてこな格好をしていることもありますし、ものすごい急カーブもあります。そして数え切れないほどの信号や標識。そうしたものをすべて見て、内容を理解して、判断しなくてはいけません。さらにクルマは一人きりではありません。他のクルマやバイクも同じ道を走っています。歩行者や自転車とも交差します。たまに犬や猫、鹿といった動物も。それらに衝突するわけにはいきません。上手に、他のクルマや人をやりすごし、場合によっては周囲とコミュニケーションをとる必要もあります。
そうした数多くの技術的ハードルをクリアする必要があるため、自動運転は一足飛びに完成することができません。そこで完成への道のりにステップが考えられました。できることのレベルを段階的に決めようというわけです。日本でいえば内閣府から「官民ITS構想・ロードマップ」が発表されています。
それによると自動運転の技術にはレベル1から4までの4段階があるとされています。
レベル1:
アクセルペダルを踏まなくても一定の速度で走行する、いわゆるオートクルーズ機能にあたります。
レベル2:
前走車に追従する機能であるACC(アダプティブ・オートクルーズ)に該当します。ドライバーはアクセルもブレーキも操作する必要はありません。システムが、前を走るクルマのスピードにあわせて速度を調節してくれます。ただし、ドライバーは常に走行状態を監視する必要があります。
レベル3:
ドライバーがステアリングもアクセルもブレーキも操作しなくても、まわりの流れにあわせてクルマが自動で走ります。曲がり角も自動で曲がります。ドライバーはよそ見をしていてもOKです。ドライバーが監視から解放されます。しかし、システムから要請があれば即座に人間が運転を交代します。
レベル4:
いかなる状況においても人間は運転しなくてよいという状況です。ここまでできると、ドライバーが乗っていなくてもいい、つまり無人運転が可能になります。
内閣府の提言にはレベルごとの呼び方も決められています。
レベル1:安全運転支援システム
レベル2、3:準自動走行システム
レベル4:完全自動走行システム
レベル2~4:自動走行システム
ちなみに、日産セレナに採用された自動運転機能「プロパイロット」や、アメリカのテスラモータースの「オートパイロット」は、ドライバーの監視が必要なレベル2となります。言い方としては「自動走行システム」、「もしくは準自動走行システム」ですね。いずれも、「完全自動走行システム」までは届いていません。
※表:内閣府「官民ITS構想・ロードマップ」より抜粋
社会の合意や法制度の改正も必要
夢の自動運転の実現のハードルは技術だけではありません。社会の合意や保険や法律の準備も必要です。たとえば完全な自動運転中に交通事故が起きたら、誰が、どのように責任をとるのか? お金は保険で済むかもしれませんが、刑事的な責任は誰がとるのでしょうか? 自動車メーカーなのか? クルマの所有車なのか? それとも乗っていた人なのか? そして事故の被害者やその親族は、その内容に納得できるのでしょうか?
そうしたソフト面が用意できなければ、実際の公道を自動運転のクルマが走ることはできません。ちなみに「官民ITS構想・ロードマップ」には、レベル3の市場展開は2020年以降であり、レベル4は2025年以降と記されています。
私たちは自動運転と、どう付き合っていくべき?
自動運転の実現に向けて自動車メーカーや政府は、努力を続けています。ユーザー側としては、そんな状況を知り、正しく最新技術を使っていくことが大切です。
最新の自動走行システムが採用されているクルマでも、2016年の現状では「ドライバーが常に監視をしなくてはいけない」「万一の交通事故のときは、ドライバーが責任をとらなくてはいけない」ということ。この2点を忘れずに自動走行システムのクルマを利用しましょう。
※この記事は2016年11月時点の情報に基づいて構成したものです
鈴木ケンイチ/モータージャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会会員)
1966年生まれ。新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材、ドライブ企画まで幅広く行う。特に得意なのは、プロダクツの背景にある作り手の思いを掘り出すインタビュー。