自動車関連 | 公開日:2016年9月12日 / 2464view |
「無人タクシーは夢物語ではない」ロボットタクシー社が描く未来図
世界の自動車メーカー、IT企業が自動運転技術や自動運転技術を活かしたサービスの開発に凌ぎを削るなか、2015年5月、IT企業の株式会社ディー・イー・エヌ・エー(以下、DeNA)と、ロボット技術のベンチャー企業、株式会社ZMPが合弁会社「ロボットタクシー株式会社」を設立。2020年東京オリンピック・パラリンピックにおいて完全自動運転による無人タクシーサービスを開始させようと挑戦している。
2020年まであと4年、どのように実現させていくのか。ロボットタクシーが目指す未来とは? ロボットタクシー社広報を担当する、DeNAの黒田知誠氏にインタビューした。
目次
ロボットタクシーとはどのようなサービスでしょうか?
完全自動運転車による交通サービスです。いつでも迎えに来てくれて、どこへでも行ける、それも安価で――私どもはそんな新しい交通サービスをあらゆる地域で展開しようとしています。今年2月には神奈川県藤沢市の公道で、ドライバーを乗せた状態での実証実験を、3月には宮城県仙台市にある元小学校の校庭で、ドライバーレスの実証デモンストレーションを行いました。現在の法律では運転手不在で公道を走行することが認められていないため、ドライバーレスでの実験を公道では行えないのですが、ドライバーレスの実験も早期に取り組めように、日本政府の指針や動きにあわせた準備を進めています。
自動運転と聞くと夢物語のように感じられる方も少なくないと思いますが、近年、自動運転技術は急速に進化しています。また、日本では政府が「2020年東京オリンピック・パラリンピックでの無人自動走行による移動サービスや高速道路での自動運転を可能にする」と明言し、実現に向けて各省庁が動いています。自動運転の実用化を国の政策として掲げ、期限まで明確に打ち出すのは世界でも稀なケース。ロボットタクシー社としても夢物語などではなく、2020年に自動運転のサービスを開始させるべく本気で取り組んでいます。
ロボットタクシーが目指すものとは何でしょうか?
移動弱者が多い過疎、高齢化が進む地域でのサービス展開です。そうした地域では、利用者の減少や労働力不足などから、鉄道をはじめタクシー、路線バスなどの公共交通が撤退する例も少なくありません。バスはあったとしても本数が少なく、高齢の方はバス停まで行くこともままならない、タクシーも都心のようにいつでも乗車できる環境ではない――。買い物や通院するのも困難な、移動弱者の方が増え続けているのです。
完全自動運転による交通サービスは、運転に要する人件費を抑えられるため、そのぶんを事業継続のための収益とすることができ、また、より安価にサービスを提供できるようになると考えています。この新しい交通サービスが普及すれば、今は過疎地といわれる地域が活気づいて、おじいちゃん、おばあちゃんもより元気に外へ出ていけるようになる。移動の可能性が広がることで都市部以外での新産業も創出されていくでしょう。そんな未来の実現こそがロボットタクシー事業の目指すところです。
自動車メーカー各社も自動運転に取り組んでいます。ロボットタクシー社との違いは何でしょうか?
自動運転と一口にいっても内容はさまざまで、自動車メーカーが取り組んでいる自動運転の多くがドライバーをサポートするためのものであるのに対し、私どもが目指すのはドライバー不在の自動運転であり、乗客に向けたサービスです。そういった観点ではロボットタクシーは方向性が大きく異なると思います。
ロボットタクシーの場合はハンドルやアクセル、ブレーキも不要なので、クルマの形態にこだわる必要もありません。名称は「ロボットタクシー」ですが、私どもが実現を目指しているのは、今のタクシーを単純に、ただ自動運転化するということではなく、まったく新しいモビリティサービスの創出なのです。たとえば、グループで遠出をするなら、みんなでわいわい過ごせる広めの車両、ひとりで映画を楽しむなら画面とゆったり寛げるプライベート空間を兼ね備えた車両――将来的にはそんな風に、用途によって大きさやスペックを選択できるようにしていくことを考えています。
ロボットタクシー実現のための課題は何でしょうか?
課題は大きく3つあり、1つは技術の向上です。これに関しては高度な技術力を有しているZMP様に、自動運転車両からシステムの開発といった技術面はすべてお任せしています。2つ目は法整備。国内法はもとより、国際条約であるジュネーブ条約において運転手のいない運転が認められていないことがネックとなっています。3つ目は社会受容性、ロボットタクシーという未知な車両に対して、いかに便利で、使いたいサービスと思ってもらえるか。いくら技術が優れていても、一般の方々に受け容れてもらえないことには普及しないので、私どもは社会受容性の部分をとても重要視しています。
神奈川県藤沢市の実証実験では、住民の方にモニターとして自動運転タクシーを利用していただきましたが、この実験は技術面よりも、一般の方々が自動運転サービスをどのように受けとめるのか、わかりやすく言えば「欲しい!」と思ってもらえるのかを確認する目的が第一にありました。無事故で実証実験を完了することができ、概ね好意的、ポジティブな反応を得られたので、やや、ほっとしています。今後も、一般の方が体験できる機会を設けて身近に感じてもらえるようにしていく、ロボットタクシーとはどのようなサービスなのかをできるだけわかりやすく発信していくなど、時間をかけて地道に取り組んでいくことが大切だと考えています。
実現に向けてのロードマップをお聞かせください
サービスを開始する2020年の時点では、今のタクシーと巡回バスの中間くらいのサービスをイメージしています。どういうものかといえば、まずサービスを実施するエリアに、ロボットタクシーの乗車・降車ポイントを1、2、3、4…と設定します。あくまでもマップ上のバーチャルなポイントなので実際の道路上にはありませんが、イメージとしてはバス停のようなものですね。エリア内には複数のロボットタクシーが巡回していて、たとえば3番から8番まで移動したい人がスマートフォンのアプリでロボットタクシーをよぶと、3番に最も近い位置にいるロボットタクシーが配車されます。ロボットタクシーが迎えにきたらスマートフォンで認証してドアを解錠し、アプリで目的地を設定する。最短ルートで8番へ移動し、アプリで決済をして移動完了。おおよそ、このようなイメージです。2020年にはまだ乗車・降車ポイントの数が限られ、今のタクシーのように自由に移動できるレベルまではいかないと思いますが、巡回バスのように決まったルートを廻る手間などは省けます。
現在、サービスインの候補地として考えているのが、国家戦略特区の千葉市とお台場エリアです。2020年以降は両地域を中心にシステムをアップデートしていき、組みあがった時点で他のエリアにも導入、随時拡大していく。これが、ロボットタクシー普及への近道ではないかと考えています。それには公道の実証実験を積み重ねていくことが不可欠ですが、最優先すべきは安全です。出来る範囲で出来ることを少しずつ積み重ねて、ここまでは大丈夫、という領域を着実に広げていく考えです。
自動運転サービスを展開する上でDeNAの強みは何でしょうか?
インターネットサービスにおける豊富な経験値、ノウハウを持っていることですね。いくら優れた自動運転技術があっても、それだけでは公道で無人タクシーを走らせ、人々に利用してもらうことはできません。自動運転に関わる様々な技術とインフラを結びつけて、実際にユーザーが使えるサービスに落としこむプロセスにおいては、インターネットがおおいに役立ちます。たとえばスマートフォンのアプリにして使えるようにする、あるいは高齢の方を考慮して電話でも使えるようにする。それも、誰にもわかりやすく使いやすいように、とことん精度を高めていくことで広く利用されるサービスになっていきます。このような技術のパッケージ化こそDeNAの得意とするところです。また、DeNAはメーカーではないのでクルマづくりや技術開発はできませんが、他社と協業しながらサービスを実現していくことにかけては実績もあり、自信があります。自動運転サービスにおける技術と人のつなぎ役、私どもは「モビリティサービスプロバイダ」とよんでいますが、その先駆者となるべく取り組んでいます。
現場の方たちはどのような想いで取り組んでいるのでしょうか?
確実に言えるのは、全員非常にモチベーションが高く、心底から楽しみながら取り組んでいるということです。IT業界では、先陣をきって取り組んだ企業がその分野が成功したときにトップに立つのがセオリー。自動運転技術を活用したサービスはまさに前例のない取り組みで、自分たちがモビリティサービスプロバイダのトップをとってやるんだという気概もあります。ヴィジョンも明確です。ロボットタクシーのコンセプトである「移動を楽にする」という言葉に、すべてがこめられています。「楽」には二つの意味があって、一つは楽ちんであること、Easy。もう一つは楽しい、Funです。移動中に多様なエンターテイメントを楽しめることもそうですが、たとえば高齢者や障碍者など外出をあきらめていた方々が、自動運転サービスを利用していつでも行きたいところへ行けるようになる、エンジョイできるという意味もこめています。みんなが今よりも楽になって、楽しくなって、笑顔がこぼれる――そんな社会が近い将来実現すると思うと、本当にワクワクします。みなさんも、ロボットタクシーが走る日を楽しみにしていてください。
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勝部 美和子
カーライフマガジン「アンテーヌ」をはじめとする自動車雑誌、子育てママのための情報誌・サイトの編集等を経て、現在はママのライフスタイル、女性のためのカーライフをテーマとした企画・執筆等を行う。